人恋ひしさうな あなたへ 佐藤 さと 人恋ひしさうな あなたへ 僕の手紙を差し上げます。 木枯しに運ばれる 枯葉の行く方を 独りで追ふ淋しさは ただ 僕の哀癖のせいだけなのでせうか。 陽だまりに舞ひ降りた枯葉は まだ 幸福です。 優しい少女が さううとポケツトに 入れて 歸つていつて呉れるかも 知れないから・・・・・。 けれども 水溜りに落ちた 枯葉は不幸です。 水面を舟のやうに 漂ふだけなのです。 けふも 僕はまるで 枯葉のやうに ころころと あてもなく 街を さすらつて ゐました It’s good be home again. It’s good be home again. まう一度 家に帰らう。 僕は映画「青春の殺人者」の ラストシインで流れたメロデイを 口ずさむ. 父と母を殺し 恋人さへ棄てた あの殺人者はトラツクの荷台に乗つたまま 何処へ歸つて行つたのだらう。 It’s good be home again. It’s good be home again. ![]() 独りぼつちの 下宿生活は 僕を余計に センチメンタルにしました。 僕は明日、長崎へ帰ります。 長崎の街は坂道が多く 美しい街です。 萩原朔太郎では ありませんが 坂のある風景は 僕にロマンチシズムを覚えさせます。 坂道を登つてゆく途中で 僕は 何度 夢想したことだらう。 この坂道の向かふに 少女が待つていて呉れる。 さうして 少女の哀しい微笑みは 僕にだけに さううと 覗かせて呉れる。 何てね. 待つていて欲しひ 僕の坂の向かふで 僕に 微笑みを 返すために・・・・・・。 〔21歳〕 ![]() 名城大学には 色んなサークルがありました。 天白校舎の北側に ずらりと並んだ プレハブというよりバラック建ての サークルボックスには 落語研究会、証券研究会、学法連、部落開放研、 写真部、美術部、世界民族音楽研究会、茶道部 ギターマンドリンクラブ、郷土歴史研究会 ESS 漫画アニメSF研究会、映画研究会、演劇部 そして 僕の所属した文芸部などが活動していた。 建物が長屋風に できて いたので 他のサークル部員とも 自然に仲良くなれた。 今回ホームページに載せた 「人恋ひしさうな あなたへ」 は そんな仲良くなった友人の一人 異端文化研究会に 所属していたM君に ラブレターの下書きを頼まれたことから 生まれた作品です。 「冬休みになって 実家の長崎に帰るまでに 何とか 思いだけは彼女に伝えたい。」 と いうことでしたので 書いてみたのですが それを 渡したかどうかは 今でも 解りません。 ![]() |
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